炎症反応で歯は動く

ヒトの歯は「歯根(しこん)」という根っこの部分が歯茎の中の歯槽骨(しそうこつ)とよばれるあご骨の中にに埋まっています。歯に矯正力がかかると、この歯根が歯槽骨に押し付けられ炎症反応が起こります。歯根の進もうとする方向の既存の骨が溶けていき、反対側は新しい骨が作られます。このようにして、矯正力を受けている歯根は移動していくのです。ですから、矯正治療は炎症反応なので歯が動く時、最初は痛みあるわけです。
この炎症反応のワンクールが終わるのには3~4週間程度かかります。成人の場合、 じび1回の周期で歯根は最大0.5mm程度くらいしか動きません。少ないように感じるかもしれませんが、どのような矯正治療方法もこれくらいになります。
これくらいスピードだと痛みが強く出たりする事は少ないため、生体に適切なスピードと言えます。強い力をかけすぎると、歯根部が耐えられなくなり「歯根吸収(しこんきゅうしゅう)」といってダメージを受けてしまいます。
人によっては、「1か月でもっと歯並びが動いている」と感じる方もいるかもしれません。しかし、その上部にある私たちが目にする歯の頭の部分である歯冠(しかん)の移動量を見てそう感じているだけで、実際歯根が移動したわけではありません。
インビザラインでは、1つのマウスピースで0.25mm歯冠が動く量が設定されています。1週間で次の新しいマウスピースに交換していくと、4週間で最大1mmほど歯を動かすシステムになっています。

全ての歯を一気に動かす事はできない

1か月で歯根の移動量が0.5mmなら、「全ての歯を一気に0.5mmづつ動かせば効率良く治療期間も短くなのではないか」という考えも出てくるかもしれません。ですが、残念ながら矯正治療では全ての歯を一気に動かす事は難しいです。アンカー【固定源】という考え方があり、歯列はバラバラにならないよう段階を踏んで順番に歯を動かしていかなくてはならないからです。
当院でも、患者さんから「早く前歯を抜歯した隙間に引いてほしい」なんていう要望を受ける事もあります。これも同じように訳があって動かせないのです。

10代前半が一番動く

矯正治療は前述のように炎症反応で動きます。ですから、からだの代謝が高い成長期の方が歯茎のまわりの組織の再生が良く、歯の動く速さという点で圧倒的に有利です。さらに10代前半の場合は、歯根の先がまだ開いていおり、栄養血管が豊富です。歯が生えようとする力である「萌出力(ほうしゅつりょく)」が残っているため、歯の動きが一番早い時期になります。

歯根を動かすのには時間がかかる

私たちはレントゲンを取らない限り歯茎の中にある歯根を見る事ができません。ですから、見える歯冠の部分で移動量を計算する事になります。そうすると、歯冠の部分は大きく動いていても、実は歯根はほとんど動いていないという事も結構あります。
歯の移動量は、歯根の表面積の広さや形状にも影響を受けます。一般的には根が4本ある下の6歳臼歯が動くスピードが一番遅いと言われています。ですから、下の奥歯を動かさなくてはいけない治療はゆっくり進むので、患者さんには我慢が必要になります。

歯は長い方が良く動く?

同じ距離でも、歯冠とよばれる見える歯の部分が長い方が速く動くように感じます。これは、実際の歯根の移動量は同じなのですが、歯冠が長い方が傾斜移動といって歯を倒しこみ移動で動かす事ができるからです。振り子の糸の長さのようなイメージです。

きど歯科