みなさんは『歯の矯正』という治療がいつの時代からあるのかをご存知でしょうか。昨今の歯科矯正では従来の金属の装置を使用したものではなく、透明の薄いプラスチックの素材でできたマウスピース矯正が流行しています。
マウスピース矯正が登場したのはごく最近のことであり、それより以前は今までの金属の装置による矯正治療が行なわれてきました。
欧米では、「歯並びが良い」ことは一種のステータスであり、仕事ができる人の最低条件であるという考えが一般的です。
ではこの金属の装置を使用した矯正治療はいつの時代から始まり、それまではどのような矯正治療が行なわれてきたのでしょうか。今回は歯科矯正の歴史についてご紹介したいと思います。

歯科矯正について

そもそも歯科矯正は、『歯科矯正学』という歯や顎を移動することで不正な噛み合わせを改善するために研究や分析、そして治療を行なう学問から生まれた治療です。また『歯科矯正学』の定義には首から上の成長や発育の研究も含まれています。そのため不正な噛み合わせの治療だけでなく、子供の成長における顎骨から頭蓋までの発育も研究の対象となっていました。
さらに歯や顎を含めた顔における奇形などの問題は、はるか古代ギリシャの時代から既に言及されていたようであり、まさに何千年も昔から矯正にまつわる治療ははじまっていたと言えるのです。

矯正のはじまり

ここで具体的な矯正治療のはじまりについて触れたいと思います。最初に歯の矯正について言及したのは、ローマのとある医師であると言われています。彼は乳歯が抜け落ちたあとに生えてきた永久歯が不正な位置に生えていた場合、「指で押して正しい位置に戻すように」と言ったそうです。
また先程の、不正な歯並びや噛み合わせやそれにまつわる顔や頭蓋の奇形について言及した人物こそが、同じくギリシャの医師でした。このことから『歯科矯正学』という学問が誕生するより以前から、既にギリシャの医師たちは、歯は矯正治療をすることが可能であることを知っていたことが窺えます。
そして現在のように装置を使用した本格的な矯正がはじまったのは西暦1700年頃からであり、その後は数々の治療法が生み出されていくようになります。

矯正の治療法

ここで、現在までの矯正治療において行われてきた矯正治療法についてご紹介します。歯科矯正の歴史をたどると、これまで行われてきた治療法が現在の歯科矯正の原点となっていることを知ることができます。
しかし、その方法をたどっていくと、たくさんの治療法に枝分かれしていき、ひとつひとつを詳しくご紹介するにはあまりに情報量が多すぎます。そのため、今回は多くの治療法のなかでも代表的なものをご紹介させていただきます。

エッジワイズ法

『エッジワイズ法』とは1900年代に登場した歯科矯正学ではとても有名な治療法です。これを生み出したのは、矯正歯科医の間では知らない者はいないとされている人物でした。そのため彼の名にちなみ、『エッジワイズ法』は別名『アングル法』とも呼ばれていました。

彼はあらゆる不正な噛み合わせを分類し、またその分類においてそれぞれの治療法も確立しました。さらに当時の矯正装置を大きく改良し、歯科矯正学の教育学級を創立したのもこの人物であり、その大きな功績を残したことから「歯科矯正学の父」と呼ばれています。

この『エッジワイズ法』は、開発者の塾を卒業した日本人の歯科医師によってはじめて日本に伝えられました。その後は多くの医師たちにより数々の改良が施されていき、それにより現在の矯正治療法に至っているとされています。
よって、『エッジワイズ法』は、日本の現在の矯正治療の基礎とも呼べる治療法なのです。

ベッグ法

次に『ベッグ法』についてご紹介いたします。『ベッグ法』とはオーストラリアの矯正歯科医により開発された治療方法で、開発者の名にちなんでベッグ法という名がつきました。

ベッグ法を生み出したこの矯正歯科医は、最初にエッジワイズ法が発表されてからその約25年後に登場してきました。またこの『ベッグ法』は強い矯正の力で歯を動かすエッジワイズ法とは異なる概念に基づいており、弱い力で歯を動かす矯正治療を唱えていました。

しかしそのために、エッジワイズ法と比べると歯の複雑な移動や細かい調整などが不得手な治療法でもありました。そのため、この治療法を取り入れる歯科医院はあまり多くはなかったとのことですが、『ベッグ法』はのちにエッジワイズ法に大きな影響を与えたとされています。

このエピソードは、同じく強い力で歯を矯正するワイヤー矯正と、弱い力で歯を矯正するマウスピース矯正が混在している今の歯科矯正と少し似た部分を感じるものがあります。

多くの改良と研究が行われてきた歯科矯正

歯科矯正の歴史をたどったことにより、今日まで行われてきた矯正の研究と装置の改良の数々を垣間見ることができたかと思います。そしてとても意外だったのは、歯の矯正が可能であることは紀元前の頃からわかっていたということ。

はじめは指で歯を押すことにより矯正を行っていましたが、現在は装置を使って機械的に矯正をすることが当たり前となっています。それを考えると、時代の流れとともに人々の歯並びがいかに複雑なものになってきているのかということも量り知ることができるかと思います。
現在は新たにマウスピース矯正が注目されているように、歯科矯正はこれからも変化を遂げていく治療となるでしょう。

きど歯科