矯正で歯が動きやすい人

歯列矯正で歯が動きやすい人と歯がなかなか動かない人にはどのような違いがあるのでしょうか。歯が動きやすさは治療の期間に影響するため、気にされる方は多いでしょう。
また、歯がまったく動かない「アンキローシス」という状態があることをご存知ですか?

歯列矯正で歯が動きやすい人の特徴とは?

歯並びは一人ひとり異なるため、歯列矯正にかかる期間もそれぞれです。一般的にブラケットと呼ばれる矯正器具を装着し、歯にワイヤーで一定の力を加えながら行っていきます。このときに「歯が動きやすい人」もいれば「動きにくい人」もでてくるものです。

歯並びの問題が軽度

もともと歯並びの問題が軽度で、歯を動かす度合いが小さければ歯は動きやすく、より短い期間で歯並びを整えられます。

新陳代謝が活発

歯列矯正をする際、歯を動きやすくするために重要となるのが、歯の周辺組織の新陳代謝です。代謝が活発であればあるほど、歯も動きやすくなります。
そのぶん歯列矯正の効果も出やすくなるのです。代謝を良くするためには食生活や睡眠時間等も意識しながら、規則正しい生活を心がけるようにしましょう。

舌や口元に悪い癖がない

舌や口元に悪い癖があると、歯が思うように動きにくいことがあります。とくに前歯を舌で押す癖や頬杖をつく癖がある人は注意が必要です。それらの癖がない人は、余計な負担が掛かることもないので、歯を動かす妨げになりません。そのため、歯列矯正の効果がより出やすいでしょう。

医師の指示をきちんと守れる

歯を動きやすくするために最も重要なことは、「医師の指示をきちんと守ること」です。せっかく歯が整いはじめた場合も、矯正装置の使用時間などを守らなかったり、通院をやめてしまうと再び歯が乱れ始める可能性も高くなります。十分に注意してください。

歯列矯正で歯が動きにくい3つの原因

歯の移動する速度は個人差が大きいものです。しかしなかには「歯が移動しにくい人」そして、まれに「まったく動かない人」がいます。主な原因は以下の3つです。
(1)「舌癖(ぜつへき)」がある
(2) 強い「咬合力(こうごうりょく)」がかかっている
(3) 歯が「アンキローシス」を起こしている

(1)(2)は通常よりも歯が移動するスピードは遅くなります。(3)の場合は歯が完全に動かないこともあるのです。

舌癖

「舌癖」とは、無意識のうちに舌を歯に押し付けるなど、舌のクセのことです。歯列矯正は、動かしたい方向に向けて力をかけることで歯を引っ張ります。動かしたい向きとは逆の方向に押すような舌癖がある場合、矯正でかける力を打ち消してしまうのです。このため歯がなかなか正しい位置に動きません。
例えば、「空隙歯列(すきっ歯)」「開咬」「上顎前突(出っ歯)」の人は、歯を舌で外側に押してしまう舌癖を持っていることが珍しくありません。そして、この舌癖は、気をつけていても止めるのが難しいものです。

咬合力が強い

「咬合力」とは、噛む力のことです。集中しているときや寝ているときなどに、歯を食いしばるクセのある人がいます。すると歯に強い咬合力がかかるため、矯正でかける力を相殺してしまい、歯が移動しづらくなるのです。
これが当てはまりやすいのは、噛み合わせが深く、噛んだ時に下の前歯がほとんど見えない「過蓋咬合(かがいこうごう)」の人です。

アンキローシス

アンキローシスは歯と骨の間に存在しているはずの歯根膜(しこんまく)がなく、歯の根っこと骨(歯槽骨)が直接、結合している状態をいいます。
歯根膜とは、歯と骨の間にあるクッションのような柔らかい組織で、歯と骨をつないだり、歯の周りの組織に栄養を運んだりしています。なんらかの原因で歯根膜がダメージを受けて損なわれると、歯根膜を介さずに、歯と骨がじかに接する状態になり、そのままくっついてしまうことがあるのです。この状態をアンキローシスといいます。

自覚症状なし!歯が動かない「アンキローシス」になるとどんな問題がある?

歯と骨という非常に硬いもの同士が一体化しているため、矯正の力をかけても歯は動きません。そのため、他の歯は移動しているのにアンキローシスの1本だけが動かない事態が起こるのです。
大人の場合、アンキローシスが問題になるのは通常、歯列矯正を行うときだけです。痛みや違和感を生じることもないので、日常生活に問題はなく、自分で気づくこともまずありません。

アンキローシスの原因は?

アンキローシスの原因は特定できないケースも多いのですが、歯根膜を損傷する原因として「口の中の外傷」があげられます。 「歯が抜ける」などの大きな衝撃を受けた場合や、ちょっとした外傷でも歯根膜が傷つき、アンキローシスの原因になることがあります。
また、子どもの時に乳歯をぶつけたことが原因で、後に永久歯がアンキローシスになるケースもみられます。ただし、アンキローシスが起こる頻度は決して高いといえません。

アンキローシスは歯列矯正をはじめる前に診断がつく?

アンキローシスが起こる場合、ある程度の予測はできますが、確定診断ができるのは、矯正を始めて2〜3ヶ月後です。
アンキローシスを診断するには、「レントゲンを撮って歯根膜の状態を確認する」「歯を叩いた時の音を確認する」などの方法があります。ただし、これらの検査や診察だけで正確な判断することは困難です。最終的には「矯正の力をかけても歯がまったく動かない」という事実をもって、診断するケースが一般的でしょう。

アンキローシスで歯が動かないときの歯列矯正治療

アンキローシスを起こしている歯がある場合も、歯列矯正は続けられます。ただし、当初の方針のまま治療を継続するのではありません。到達可能なゴールを再設定し、治療の方向性を修正する必要が出てきます。
他の歯は歯列矯正で並べますが、アンキローシスの歯には、特殊なアプローチが必要になってくるからです。
アンキローシスが起きている場合、一般的には次の順番で対応します。
1. 歯に矯正の力をかけてみる
2. 脱臼を起こさせ、歯列矯正ができる状態にする
3. 歯列矯正以外の方法による治療を行う

矯正の力をかけてみる

歯根のすべてがアンキローシスを起こしているのではなく、正常な歯根膜が部分的に残っていると思われるケースが時折みられます。このような場合、何かの拍子にアンキローシスを起こしていた部分が外れれば、歯が動きはじめる可能性もあるのです。そのため、まずは歯に矯正の力をかけて、様子を見るのが第一選択になります。
歯根膜の状態はレントゲンだけでは判断が難しいので、「動かしてみないとわからない」のが実情です。

歯に脱臼を起こさせ、歯列矯正ができる状態にする

あえて「歯の脱臼」を起こしてグラグラの状態にすることで、アンキローシスの歯を動かせる場合があります。
「歯の脱臼」という耳慣れない言葉に不安を抱かれる方もいるかと思いますが、この処置は口腔外科で行います。
この治療で、脱臼を起こしても動かせなかった歯は、歯列矯正以外の方法で対応する必要があります。その場合の治療方法は基本的に以下の2つです。
・アンキローシスの歯にかぶせものをして、歯の形を修正する
・抜歯してブリッジやインプラントを入れる
これらの治療を行うのは、アンキローシス以外の歯を歯列矯正で並べ終わった後です。

具体的な対応方法は、アンキローシスを起こしている歯の位置によっても変わります。しかし歯列矯正で動かせない歯があるからといって、歯並びを整えないまま、歯列矯正の治療を終えることはありません。 失活歯や再植、移植した歯はアンキローシスが5年〜10年のスパンで起きやすいと言われています。

アンキローシスは非常にまれではありますが、歯列矯正にともなう代表的なリスクの1つですので、ぜひ知っておいていただきたいものです。

歯列矯正をスタートする際には、現在のご自身の状況や考えられるリスクを理解した上で、治療にのぞんでいただきたいと思います。小さな疑問でも、矯正歯科医に相談しましょう。

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